普段はWeb制作の仕事をしていますが、特にディレクション業務をしていくうえで僕が特に重視しているのが、何事においても「悲観する」ということです。
最初からそういう姿勢で仕事をしていたわけではありません。その考えるようになったのは、作家の森博嗣さんの著書を読んだ影響がすごく大きいです。森さんはこれまで作家として多数の小説を書いてきた人なのですが、執筆のスケジュールにおいて一度も遅延をしたことがないそうなのです。
そのスケジュール感、リスク対策の考え方の根幹をなしているのが、このエントリのタイトルにも挙げている「悲観する」ということ。森博嗣さんの新書『悲観する力』では、「悲観」して物事を考えることが、物事を成功に導くためのコツだと説いています。このエントリは、その書評エントリです。
目次
「悲観」はWeb制作のようなプロジェクトこそ必要
すごくざっくりいうと、「悲観する」ということは、物事が自分の思ったとおりにならないこともある、ということを(1)事前に見積もり、(2)その際のための対策を取っておくことです。(1)だけだとただ心配して終わりですが、それだけでなく、なにかを遂行するうえで起こりうるリスクを事前に考え、困ったときの対策まで打っておくことが重要です。
逆に、これとは別の考え方が「悲観」の対義語である「楽観」です。例えば、「Aが起きたらBになる」という状況において、「Bになるかもしれないし、CやDといった他の事態に陥るかもしれない」と想定しておくのが悲観で、「Aが起きたら、まあBになるでしょ」と他の事態を考慮しない姿勢が楽観、だといえます。
「悲観する」とはどういうことか、ひとまとめに書くと上記のような内容になります。
本書を読みながら思っていたのは、Web制作こそ「悲観力」がとても重要になる仕事だということ。そもそも森さんの他の本でも「なにごとも悲観しておいた方がいい(成功確率が上がる)」ということは散々書かれているので僕にはすでにインプットされていたのですが、改めてその重要性を再認識しました。
Web制作は進行上の「リスク」がいたるところにあるプロジェクト
プロジェクトという視点で見ると、Web制作はとても「リスク」の多いプロジェクトです。ここでいうリスクとは本来的な意味の、「不確性が高い」ということ。
特に進行上注意したいのが、スケジュールにおけるリスクです。
あるひとまとまりの工程群が完了したら、次のある工程群へと以降してどんどん作り上げていく、ウォーターフォール型のプロジェクト進行をすることが多いWeb制作ではスケジュールの遅延は珍しいことではありません。もちろん、できればないほうが良い事態ですが、どれだけ注意していても多少の変更はどうしても起こってしまうのです。
このスケジュールの遅延の理由はさまざまです。例えば以下のような感じでしょうか。
- そもそも制作のための日程が足りなかった(いちばん低レベルなミス)
- 途中で追加すべき項目が発覚し、追加日程を組んで作る必要があった
- クライアントから、途中で追加の要望があり、別の日程で対応する必要があった
- やり取りをしているディレクター(受注側/発注側)、制作陣、確認者が病欠などの理由で仕事ができない状態になった
- クライアント側の確認に、思っていたより時間がかかった
- クライアント側からの戻しのすり合わせに思っていたより時間がかかった
などなど…、いろんな状況があり、挙げればキリがありません。
制作のための日程がそもそも足りなかったとか、途中で追加項目が発覚したなど制作サイドのミスは言語道断ですが、だれの責任ともいえない、やむを得ない遅延というのも、まあ少なくないわけです。
当然、プロジェクトメンバー全員がよりよい成果物を作りたいと思っているはずなので、戻しの対応にもそれなりに時間がかかりますし、場合によっては、作ったものを再度1から作り直す、ということもあったりします。
スケジュールは、常に「悲観」してバッファを持たせておく
上記のようなやむを得ない理由であっても、スケジュールの遅延は避けたいものです。プロジェクトマネジメント能力を疑われますし、他に進行している案件にも影響が出て困ることがあるからです。
では、どうすれば遅延しなくて済むのか。そのときに必要なのが「悲観」することです。簡単にいうと、もともとのスケジュールを組む段階で、上記のようなあらゆるリスクを見越して、先に長く見積もっておくわけです。事前に長めにスケジュールを見積もっておけば、アクシデントによってスケジュールが遅延する可能性は下げられます。
例えば、クライアントの確認フローが複雑で、かつクオリティにものすごくこだわる人であるという情報がわかっているとします。その場合は、その分戻しに時間がかかりそうなので、ブラッシュアップのための日程を多めに組んだり、もしくはキックオフの段階で確認フローを明確にし、だいたいどれくらいの期間を設ければ確実に確認してもらい、フィードバックの連絡をもらえるのかを確認しておいたりします。これは、「クライアントからの戻しには時間がかかり、かつ戻しのやり取りも多いだろう」という事前の悲観に基づく調整です。
もしこれを「悲観」せず、「楽観」してしまうと、他の案件のルールや慣習になんとなく照らし合わせてしまったりして、なんとなく、そして「まぁいけるでしょ」的な対応になってしまい、その結果、案の定スケジュールは遅延してしまいます。遅延までいかないにしても、結局寝る時間を削って対応しなきゃいけなかったりして、クオリティもどんどん低くなっていきます。
僕は森博嗣さんのこれまでの著書から、特にスケジュールにおける「悲観」の重要性を学びました。それ以来、いままでは考慮していなかったような可能性を考慮し、もし何らかのアクシデントが起こっても大丈夫なスケジュールであるか、ということを考えるようになりました。
フリーランスや小規模チームこそ大いに「悲観」すべき
もし、あなたが今進めているプロジェクトが大規模なもので、メンバーも多数いるようなチームであればそこまで神経質に悲観しなくてもいいかもしれません。問題は、僕らのような零細企業のチームや、1人でプロジェクトに参加しているフリーランスです。
そういった小さなチームやフリーランスのメンバーは、得てしてアクシデントに弱いです。
なぜかというと、替えが効かない場合が多いからです。裏を返せば替えが効かない希少価値のある存在だからこそフリーランスや小規模なチームでやっていける、ということでもありますが、逆にいうと不測の事態に陥ったときのピンチヒッターがいないということにもなります。
そんな小規模なチームやフリーランスにこそ、「悲観する力」が重要なのです。むしろ、リスクに対して悲観せずに、「まぁ大丈夫でしょ」的な楽観の姿勢でいるとしたら、それは結構まずいかもしれません。なにかちょっとしたアクシデントや、問題が発生したときに、すぐにプロジェクトは止まり、遅延のもとになるかもしれません。
2週間まったく仕事ができなくても問題ないスケジュール
森さんは以前、依頼された新書の執筆中に家族を亡くし、喪主を務めたことがあるそうです。死亡が発覚し、お通夜や葬儀、役所への届け出、遺品の整理など、トータルで2週間ほど、その対応にかかったといいます。それでも原稿の納期には遅れることなく、普通にいつもとおり原稿を書き上げ、普通に納品した、とある本に書いてありました。
つまり、2週間ほどまったく仕事ができない期間があっても、納期に遅れることなく進行できるスケジュールを組んでいたということ。
これは、森さんが「家族が亡くなったら長男である自分が喪主を努め、もろもろの対応に追われる」という事態を事前に想定し、それをスケジュールに加味していたからこそ。たいていのことがあっても2週間で解決するので、その期間はバッファを設けておくべき、という「悲観」がなせることなのです。
この例は極端ですが、「親が死ぬ」という、自分の人生においてもかなり稀な事態も想定するほど、安全にスケジューリングするという森さんの姿勢は、かなり衝撃的でした(もっとも、森さんは小説や新書の執筆の場合、納期の1年ほど前までにはたいてい納品するそうなので、ほとんど全く問題はなかったそうです)。これが、「絶対に原稿を落とさない」人のスケジュールに対する考え方なのです。
そのスケジュールは、急にインフルエンザに罹っても大丈夫か?
「親が死ぬ」くらいの事態はさすがにアクシデントのなかでもレベルが高いので、もう少し日常的なもので考えると、「インフルエンザに罹る」というのは、かなり発生可能性の高いアクシデントです。2019年くらいの大流行を見ると、普通に起こりうる範囲です。
なので、「もしインフルエンザに罹ったとしても、スケジュールに問題はないかどうか」、という視点はひとつ持っておいてもいいかもしれません。
具体的な対策としては、インフルエンザに罹患して完治するまでの期間のバッファを設けておく(5〜7日程度)ということです。インフルエンザに罹患したことで全体的なスケジュールが遅延するということは、罹患してしまった人の責任です。もし、それを見越して余裕を持ってスケジュールを組んでいれば、遅延自体は避けられます。
「罹ってしまったら仕方ない」と考えるのは、「インフルエンザに罹ってしまったら遅れてもいい仕事」だと考えているということであり、またクライアントからはそのように見られてしまいます。そうならないように、事前に悲観的にスケジュールを見積もっておくのです。
まとめ
実際に、いろんなリスクを考慮して、悲観し、スケジュールに反映することは難しいかもしれません。プロジェクトにはたいてい納期があり、それに間に合わなければならないので、妥協しないといけない部分も出てくるでしょう。その場合はその妥協点を考慮して請けるか、もしくは「悲観して見積もったスケジュールでは対応できない」と判断した場合は請けなければいいのです。
ということで、『悲観する力』は「悲観力」を少しでもつけて、安心・安全に仕事を遂行していきたい人におすすめです。
なお、Web制作におけるプロジェクトマネジメントについては、前職で百戦錬磨のPMであった先輩からおすすめされた『失敗しないWeb制作』もおすすめです。
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