このブログで何度も言及していますが、森博嗣という作家がとても好きです。
『すべてがFになる』や『スカイ・クロラ』シリーズなどのミステリー/SF小説で知られる作家ですが、実は小説は一冊も読んだことがありません。
僕が読んでいるのは、森さんのエッセイ、新書のみ。
厳密に数えていませんが、おそらくこれまで25〜30冊くらいは読んでるんじゃないかと思います。
今でも、小説以外の本もかなりの冊数を出版されており、現役引退とされている近年においてもその発刊ペースは尋常じゃないほど早いです。
このエントリでは、はじめて森博嗣のエッセイを読んでみたい人に向けて、「ぜひ読んで欲しい!」と思っている作品を10冊セレクトしてみました。
エッセイと言ってもさまざまなテーマ、トーンの本があるので、気になったものを読んでみてください!
目次
1.『「やりがいのある仕事」という幻想』
森博嗣のエッセイのなかで、最初に読んで、その後に読んだものも含めて最も感銘を受けた本です。
タイトルからもわかるとおり、森さんは「やりがいのある仕事」というものを否定していて、極めて現実的に、社会生活の営みとしての「仕事」について解説しています。
繰り返すが、職業に貴賤はなく、どんな仕事でも偉い、偉くないということはない。無職であっても、人の価値が下がるわけではない。同様に、金持ちが貧乏人よりも偉いわけではない。どんなに仕事で成功しても、人間として偉くなれるわけではない。
もう何度、この本に救われたかわかりません。
調子がいいときも、悪いときも、この本を読んで「そうそう、仕事ってそういうことなんだよ」と、自分を”真ん中”に戻してくれる作用があります。
このような資格とか職種に対して、「人間の最も大事な要素」だと決めつけないことが大切だ。「そう言われてみれば、そうだよな」と考える人でも、無意識のうちに、「人よりも立派な仕事に就きたい」と願っていたりする。そういう仕事に就けば、人間としてレベルアップして、みんなから尊敬されるだろうと、勝手に思い込んでいる。
2.『夢の叶え方を知っていますか?』
「夢」がテーマの本です。
森さんは、かねてからの夢だった「自分が作ったおもちゃで遊ぶ」という生活を現在手に入れ、仕事もせずにひたすら遊んでいるといいます。
この本では、まず一般的に現代人が考えている「夢」について、編集部の事前調査をもとに明らかにしていきます。
特に、一般人への「あなたの夢はなんですか?」という質問の答えに対して、森さんがバッサバッサと斬っていく章があるのですが、まさに森節!という具合で、読んでいて爽快。
…と、同時に「あれ、俺の夢なんだっけ?」と一気に現実に引き戻されます。笑
「夢」って、普段忙しいなか生活をしていると忘れたり、おろそかにしてしまいがちなのですが、その存在がいかに人生を豊かにしてくれるのかを再確認できる本でもあります。
「夢」を見つけたい人、いま持っている夢をどうのように叶えたらいいのかわからない、という人にはぜひ読んで欲しい一冊です。
3.『科学的とはどういう意味か』
この本が刊行されたのは、2011年6月。
つまり、東日本大震災直後、さまざまなデマ・風評などがSNSなどを通じて国内を飛び交い、情報が錯綜していた時期でもあります。
そんな時期に出版されたこの本は、まさにそうした「非科学的」な言説を、ちゃんと自分の頭で理解し、科学的に(論理的ではなく、あくまで科学的に)考えることが大事ということを伝えています。
科学は、このように、普遍性を維持するための仕組みといっても良い。常にそれが再現できること、誰にも観察ができること、それが科学の基本である。
では、どうして人間は、その「再現性のある科学」というものを発展させてきたのだろう。それは、再現される事象を見極めれば、これから起こること、つまり未来が予測できるからだ。科学で証明されたことは、条件さえ一致していれば、結果がほぼ確実に予測できる。それを人間が見つけたとき、科学がスタートした、といっても良い。
以前ブログにも書いたのですが、この本は「数学ができなかったんだよねぇ〜」と語る”文系”の方にこそ読んで欲しい。
この本のいいところは基本的には文系に寄り添ったスタンスをとっているところです。「これだから文系は…」など、ネットでよく見る文系disのようなことは一切しません。
このあたりに、森さんの品の良さを感じます。まあ、「品」なんて非科学的の最たる例なのですが。笑
4.『創るセンス 工作の思考』
森さんは趣味で自宅の庭に鉄道を敷き、そこに自作の機関車を走らせる「庭園鉄道」の趣味を持っていることでファンの間では知られているのですが、そうした工作の趣味について書かれた本がコチラ。
普段まったくものづくりをしない人、した経験がない人にしてみれば「はぁ……?」という感じの内容だと思いますが、なにかひとつでものづくりに携わったことがある人は、この本は「そうそう!!」と共感できる部分が多く、かなり楽しく読めるんじゃないでしょうか。
僕が読みながらツボに入ったのが、「僕は不器用なので」といいつつ、そこそこ高精度の金属加工が要求される部品をつくり続け、何台もの機関車を完成させている点ですね。
これは、「工作」に遠い人にほど読んでほしい本だなと思います。
5.『小説家という職業』
こちらは、森さんの本業であった「小説家」という職業について赤裸々にその内情を語っている本です。
本の売り方について、出版社の編集者とのやり取り、プロモーションの方法、本の企画の方法……、など「えっ、こんなこと言っちゃっていいの?」というところまで余すところなく小説家について書かれてあるので、小説家を志望している方は一度は読んでおきたいところ。
この本は、森さんの個人的な感情等はほとんど含まれないので、余計に小説家に希望を持つことがなく、そうした意味であくまで「職業」として捉えるのにうってつけですね。
また、この本は出版社からの本の出版をメインに語られていますが、その内容の汎用性は高く、webの作家として活動していきたい方なども大いに参考にできる部分はあるんじゃないかと思います。
この次に紹介する、『作家の収支』とセットで読むのをおすすめします。
6.『作家の収支』
『小説家という職業』は、その職業全般を対象に扱った本でしたが、この本は「小説家の稼ぎ」のみにフォーカスを当てた、かなり挑戦的な本です。
詳しい額は本書を手にとって読んでもらいたいのですが、森さんが作家活動をはじめてから本書執筆時までに稼いだ額はもちろん、Kindle本と紙の本の売上の比率、映画やドラマのプロモーション効果など、かなり生々しい「金」の話が終始展開されます。
たぶん、これまでもこれからも、作家の稼ぎについてここまで網羅的に、包み隠さず本で告白したのはこの本だけなんじゃないでしょうか?
おそらく、同業者のなかには「そんなこと書かないでよぉ〜」という人も少なくなかったんだろうなと想像します。笑
7.『常識にとらわれない100の講義』
こちらの『100の講義』シリーズと、下記の『つぶやきのクリーム』は、今回取り上げた本のなかでも特にエッセイっぽい作品。
本書は、100のテーマについて、文庫本2〜3ページで森さんが考えたこと・感じたことを自由に展開していくスタイルで、内容はかなり多岐にわたります。
この本を「実践的哲学書」と評する方もいるくらいで、エッセイとはいえ森さんの哲学・思想が色濃く映し出されています。
テーマが一貫していないところから、息抜き的に隙間時間に2〜3タイトル読み進めていくというスタイルがおすすめ。
これだけでも森イズムを感じられるので、森エッセイ初心者にぜひ読んで欲しいシリーズです。
8.『つぶやきのクリーム』
こちらは、『100の講義シリーズ』と構成はほとんど同じエッセイシリーズです。
「つぶやきのクリーム」「つぼやきのテリーヌ」「つぼねのカトリーヌ」「ツンドラモンスーン」など、韻を踏んだふざけたタイトルなので特徴的。
また、本筋ではありませんが特筆すべきなのは、装丁のおしゃれさ。
パステルトーンのガーリーなイラストで、あたたかみがあり、ジャケ買いしてもおかしくないくらいのレベルの高さの装丁です。
これも、100の講義シリーズと同じく、隙間時間や寝る30分前などにちょこちょこ読み進めていくタイプの本。
「森博嗣のエッセイ、読んだことないんだけどなにがおすすめ?」と聞かれたときに、答えるときにまず挙げるのがこの本ですね。
9.『臨機応答・変問自在』
こちらは、これまで紹介してきた本とは全然変わった趣旨の本。
森さんが、実際に大学の授業で学生に対して受け付けていた質問と、それへの回答をまとめた本です。
曰く、「質問にこそ、真の実力が現れる」とのことで、普通はペーパーテストで行う学生への評価も、学生からの「質問」のみで評価していたというので驚きです。
質問の内容は、そのほとんどが授業で話した専門知識に関するものがほとんどだそうなのですが、1割ほど、授業の内容にまったく関係のない、変わった質問もあったのだとか。
専門知識系の質問は、それはそれで「へぇ〜〜〜」と勉強になる内容ですし、そうではない質問は「これには森さんはどう答えるんだろう……?」という謎のエンタメ性があるので、けっこうまんべんなく楽しめる本かなと思います。
10.『道なき未知』
こちらが、今日(2017/12/08)現在の最新刊、『道なき未知』。
もともと雑誌で連載していた記事を、事情によりウェブに移し、それを48本分まとめた内容。
わりと「100の講義」シリーズ、「つぶやきのクリーム」シリーズに近いノリで書かれてあるように思います。
タイトルにもあるとおり、いちおう「未知」「道」がテーマになっており、まったく関係ないテーマのものも含まれますが、概ねこれらのことについて森さんの持論が展開されています。
この本に収録されている連載記事は、いちばん最初2006年に書かれたものだそうですが、2017年のいま読んでもまったく色あせていません。
つまり、時代や社会情勢に左右されない、普遍的なコンテンツといえます。
こんな変化の早いいまだからこそ、こういう根のしっかり張った耐用年数の長いコンテンツを作りたいものです。
とりあえず『つぶやきのクリーム』を読んでみてほしい!
10選ということで紹介してきましたが、なかにはわりとマニアックなものも含まれているので、森エッセイのはじめの一冊としては『つぶやきのクリーム』を推します。
もしハマったら同じシリーズの『つぼねのカトリーヌ』などを読んでいただき、その後『100の講義』シリーズでどんどん深みにハマって、『「やりがいのある仕事」という幻想』や『道なき未知』など、自分の興味の軸に合った本を読むのをおすすめします。
もし、「これもおもしろいよ!」という森エッセイがありましたら、ぜひ教えてください!
この他にもたくさん読んでいますが、まだまだ掘りきれていない部分もあるので。
ではでは!
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