「水曜日のダウンタウン」「クイズ☆タレント名鑑」などの超人気番組を手掛けるTBSのテレビクリエイター・藤井健太郎さんの著書『悪意とこだわりの演出術』を読みました。
結果から言うと、めちゃくちゃいい本だった!
テレビやお笑い好き、特にダウンタウン好きには絶対読んでほしいし、そうでない広義の「クリエイティブ」にまつわる職業の方におすすめできる本でした。
『100人が「1」面白いと思ったモノと、1人が「100」面白いと思ったモノには同じ価値がある』
藤井さんは現在「水曜日のダウンタウン」の演出を行っているそうなのですが、キャストを決めたり、オンエアで採用する「説」を決めるなどの重要な部分以外の、細かいクリエイティブは必ずご自身の手で手がけないと気が済まないのだそうです。
その理由は、そういう性分だからというのもあるそうなのですが、もうひとつ「自分がコレだ」と思ったものを突き詰めることで、番組としての面白さを追求しているからなのだといいます。
100人が「1」面白いと思ったモノと、1人が「100」面白いと思ったモノには同じ価値があると僕は思います。だから、その人数と深さを掛け合わせた面積をどれくらい大きくしていけるかが勝負。それは、テレビ番組に限らず全てのジャンルに当てはまることだと思います。
旧来のテレビ番組の作り方って、どちらかといえば「100人が「1」おもしろいと思うもの」を作る、だったと思うのですが、そうではないニッチだけど1人の人にとにかく深く刺さるコンテンツも同様の価値を持っている、と。
これって、ちょっとインターネット的な発想だと思いません? 狭く深く広範囲に刺さるのがインターネットの強みですが、そういう届き方を狙って、いまの番組が作られているというのが少し驚きでした。
会社員なりの特権として、のびのびとフルスイングを
本書のなかで、僕が最も刺さったのはここ。少し長いですが、引用します。
たぶん本当のクリエイターという人種は、失敗したら即、死活問題になるようなリスクを抱えつつ、自分の表現したいこと、やりたいことを実現している人たちのことです。
そのリスクを抜いて、面白いところ楽しいところだけを真似できる……、僕らはとてもズルい立場だという自覚を強く持っています。
でも、そんな会社員のエセクリエイターだからこそ、小さくまとまらずに思いっきりフルスイングしなくちゃいけないはずです。
というか、この何のリスクも背負っていない状況でフルスイングをしない意味がわかりません。
会社員クリエイターという特殊なポジションについて言及された文章なのですが、これからの時代を会社員としてサバイブするための重要なポイントだなと思います。
テレビクリエイターの場合のリスクというと、上司に怒られるとか、視聴者からクレームがくる程度だそうです。そんなにカンタンにクビになったり、閑職においやられるなんてことはありえないでしょう。
だから、藤井さん自身、それらのリスクと「自分が心からおもしろいと思えるものを作って世に出すこと」を天秤にかけ、ほとんどの場合は後者を選ぶとも言っています。
『「ペット可」の店で、チンパンジーが小型犬をリードで連れて入ってきたらどうなるか?」みたいな、視聴者や会社の上司に怒られるスレスレの企画をいくつもOAしてきたのは、そういう無敵のスタンスがあったからこそなんだと納得しました。
そうした自分の立場のことを「エセクリエイター」とあえて卑下するのがなんとも憎いですね。ここにも、すこしの「悪意」を感じます。
松本人志は「手数」も「飛距離」も群を抜いている
藤井さんご自身が水曜日のダウンタウンの演出家ということもあり、ダウンタウンに関する記述もいくつかあって、それがまた味わい深い……。
具体的には実際に本を手にとって読んでほしいので書きませんが、とにかく松本さんのお笑いの「手数」と「飛距離」はどちらも群を抜いているということだけはハッキリとわかりました。
松本ファンにしてみれば、そういう部分の記述だけでも満足という感じ。やっぱり、お笑い好きな人って松本さんがやっぱり好きなんだよなぁ。。。
そのほか、「ジャニーズはその辺の若手芸人よりスタジオでの立ち振る舞いはうまい」などのちょっとした裏事情的な情報もあったりして、そういう点もおもしろい本でした。
お笑い好きな人はや「水曜日のダウンタウン」が好きな人はもちろん、「会社員」という立場でありながらクリエイター職を担っている人にとっては、藤井さんのスタンスは参考になるんじゃないかなーと思いました。
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